母国デンマークの地で時を経て忠実に蘇った掛け時計

デンマークの伝統的なデザインを踏襲し育むことに努めているROSENDAHL社は、数年来海外の製造業者に委ねられていたデンマークの誇りとも言える3つのヤコブセンクロックの製造権を獲得し、同時にこのウォールクロックをオリジナルデザインに忠実に甦らせることを責務とした再興プロジェクトを立ち上げました。
ヤコブセンのスタイルそして信念を100%忠実に守っていることを保証するために、ROSENDAHL社は「Roman」の設計図及び「Bankers」「City Hall」の現存するオリジナルクロックを入手し、そして、亡きヤコブセンの意思を継ぐ後継者の一人である建築家のテイト・ヴァイラント氏を監修に招き、共同制作のもと実現しました。一体型を実現した文字盤や、美しく弧を描くミネラルガラスとステンレスケース、裏蓋、色などに、テイト氏のこだわりが色濃く感じられます。
テイト氏はのちにこう語っています。
「私はどんなリクエストに対しても製造業者が最後まで責任を放棄しないということを唯一の条件として、このプロジェクトへの参加を決めました。私は製造過程の様々な機会で『No』を言ってきました。それは、私にはこの製品がオリジナルと限りなく近いことを保証する責任があったからです。針、ケーシング、ガラスの形状…、ありとあらゆるところを調べ、そして全てを乗り切りました。」と。こうして「Bankers」「Roman」「CityHall」の3つのヤコブセンクロックは、晴れてオリジナルデザインに忠実に、母国デンマークの地で甦りました。
建築家兼デザイナー テイト・ヴィアラント
1941年生まれ。1966年デンマーク王立芸術アカデミー卒業後、1966年~1971年までアルネ・ヤコブセン建築事務所でVolaやシリンダ・ラインなどのプロダクトデザインに携わり、「ナイト」の爵位を授与される。ヤコブセンの死後、アルネ・ヤコブセン建築事務所を引き継いだ「ディシング+ヴァイトリング建築事務所*」にて従事し、亡きヤコブセンの精神を引き継ぐ後継者の一人となる。2003年以降、自身のスタジオを開き、また、ヤコブセンの家具を製造するフリッツハンセン社にコンサルタントとして従事する。

ヤコブセンクロックの全ての製品の特徴とも言えるステンレスケースとの一体型を実現した文字盤。ステンレスケースの曲面に直接印刷をすることで、平坦では決して表現できない独特の立体感を演出しています。


Roman(ローマン)

ユトランド半島に位置するデンマーク第2の都市であるオーフス、その「オーフス市庁舎」を設計した際に手掛けたウォールクロック「Roman」。中で使用される家具や照明はもちろん、灰皿やドアノブにいたるまで全てヤコブセンが手掛けたことで今は観光名所にもなっている、トータルデザインという完璧主義へのこだわりが姿を現しはじめた建築物です。
当時の設計図面を元に忠実に再現されたローマンクロックは、ケースとの一体成型の文字盤が、独特の立体感を演出しています。壮大かつ非の打ちどころのないエレガンスさが印象に残る作品です。
City Hall(シティホール)

自然の中に溶け込んだ直線的な建物との絶妙なコントラストが美しい「ルードブレ市庁舎」を設計した際に手掛けたウォールクロック「City Hall」。ROSENDAHL社はこのルードブレ市庁舎に設置されているオリジナルのシティホールクロックを今回のプロジェクトの為に譲り受け、オリジナルに忠実に再現しました。
磨き抜かれたポリッシュケースと50年代らしい一切の無駄を排除した、緻密でミニマリズムを有するクールなデザインが、モダニズムを代表した作品となっています。
Station(ステーション)

1943年、デンマークの鉄道に採用された“視認性の高いアラビアインデックスのクロック。機能美を追求したバウハウスのデザイン哲学が世界のデザインに多大な影響を与える中、アルネ・ヤコブセンはLK社と共同で進めていたテーブルクロックのプロジェクトなかで、より視認性が高く、誰が見ても一目で時間がわかる最もシンプルなアラビア数字のフォントをインデックスに使用したテーブルクロックを制作しました。
このデザインをデンマーク最大手の電気機器製造会社Lauritz Knudsen(ラウリッツクヌーセン社)が高く評価し、デンマークの鉄道の駅で使われるクロックにもこのデザインが選ばれ、国内の鉄道駅にヤコブセンのデザインが普及。 世界の中でもデザイン大国として知られるデンマークの「駅」にこのシンプルな時計が設置され、この時計デザインは国民的なものとなります。そこが「STATION 」と呼ばれる所以。このクロックデザインは発表後瞬く間にデンマーク国内へ広がっていくこととなります。
Bankers(バンカーズ)

晩年のヤコブセンの最高傑作ともいわれる「デンマーク国立銀行」を設計した際、トータルデザインに基づき家具や水栓器具等とともに手掛けたウォールクロック「Bankers」。わずか2つしか現存しない希少なオリジナルクロックを元に忠実に再現されたバンカーズクロックは、監修したテイト氏が最もこだわりをもった作品です。
永遠の名作とも言われるバンカーズクロックは、インデックスの優雅なスパイラルが絶え間ない時の流れを表しています。一見細長い棒に見えるインデックスは、12個のブロックで出来ており、時間をグラフィカルに表しています。文字盤の中心である赤色は、オリジナルの色を忠実に再現し、モノトーンの中のでのアクセントとなり、バンカーズクロックの魅力をより引き立てます。ミニマリズムとモダニズムを兼ね備えながら、シンボリズムをも彷彿させる創造性豊かな作品です。