約50年経ち復刻されたベアチェア
どんな角度から見ても美しい、緩やかな曲線を描くオーガニックで彫刻的なフォルム。圧迫感のない、適度なボリューム。
2018年のカールハンセンコレクションに「CH71」と「CH72」が加わりました。いずれも、現代生活にふさわしい機能性とものとしての美しさの両方を常に心がけてきた、ハンス J. ウェグナーらしい特徴を備えた名作家具です。
もともとこの2つの家具は、1952年にコペンハーゲンの百貨店、マガジン・デュ・ノールで開催されたデンマーク家具展で発表されたものです。限られた空間に置いても圧迫感のない適度なサイズと、どこか可愛らしさも漂わせた独特のデザイン、そして抜群の座り心地で人気を集めましたが、1970年代より長らく生産が途絶えていました。
「CH71」と「CH72」の誕生の背景には、当時のデンマークの住宅事情があります。第二次世界大戦の終結までは国民の約5割が農村部に住んでいたデンマークも、戦後は都市化の一途を辿ることになります。1945年の内務省の試算で5~6万世帯分の住宅が不足するとされたため、この問題を解決すべく1947年には住宅省が誕生。コペンハーゲン郊外の住宅復興計画がスタートしました。1950年代には各地に高層集合住宅がいくつも建てられ、都心で働く人々は農村時代とは違う、コンパクトで機能主義的な住環境に暮らすことになります。1950年にウェグナーがカールハンセンから発表した5脚のダイニングチェアとラウンジチェアは、そんな現代の住宅にふさわしい、シンプルかつエレガントなデザインが特徴で、「CH71」「CH72」も基本的な考え方は同じと言えます。
ウェグナーは1940年~43年にアルネ・ヤコブセンの事務所に勤務し、オーフス市庁舎の家具デザインなどを担当していたため、モダニズム建築や集合住宅の空間についてはよく理解していました。ただ、13歳の頃から木工職人としての修業をスタートさせていたので機能面だけでなく、高い技術で素材の美しさを最大限まで引き出すことについても妥協のないものづくりでした。「CH71」と「CH72」に関しても、スペースに限りのある住宅事情の下でも使いやすいコンパクトさの中に、ラウンジチェアやソファとしての上品な存在感をきちんと持たせています。

滑らかに磨きあげられた肘掛けの先の木製ハンドルは、指が少し入る溝が設けられています。移動時に便利なだけでなく、汚れを防ぐ役割も。機能性とともに指先の感覚までも意識したディテールからも、ウェグナーの拘りを感じさせます。

背からアームにかけて流れるようなラインも特特徴のひとつ。身体を包み込む彫刻的なフォルムには、張地職人の技術力の高さを窺えます。